
背中にはひよこが乗っていて、時に羊毛がからまったり。不意の寝返りをかわしつつ、集まってくる虫をせっせとついばんでいる。
朝の光を浴びているその横では娘のはるちゃんが餌の補充や敷きわらを動かし、ルンルン気分でお世話をはじめる。
ひつじ小屋に入るとまずは抱きつく。後ろから抱きついて、横腹を両側から挟むようにワシャワシャする。
次はふわふわの生きた羊毛に顔を埋めて匂いをかぐ。ひつじの匂いは動物の油たっぷりで甘い香りだ。

まあるい大きな身体が娘にすり寄ってくるから一層かわいい。ひつじをかき分けて大豆殻を餌箱に放り込むと、我先にと頭を突っ込んでモシャモシャと始める。
大方、食べ終わると満足感たっぷりで座り込む。反芻を始めたその隣に、はるちゃんも座る。
ちょっともたれ掛かって、なでながら目、耳、鼻の状態、毛の中の皮膚、ついている虫、話しかけながらその細かなところを観ていく。ひつじも身を任せて気持ち良さそうに目を細め、眠そうだ。
僕はため息が漏れる。お腹の底の方から胸の方にあったかいものが大きくなってあがってくる。なんだか力が抜けて、畑の世話の手が止まって、フワーっとなる。
「あー、平和だなぁ」ボケッとしていると
「朝ご飯だよー」と美里(みさと)が呼んでいる。
こうして僕の1日ははじまる。
